角田光代氏の長編小説「方舟を燃やす」を読んだ
久しぶりに角田光代氏の小説を読んだ。今年2月に発売された長編小説「方舟を燃やす」である(タイミングの良いことに、サイン本をゲットできた)。大きくは二部構成になっていて、第一部は、ふたりの主人公、1950年代生まれの女性と1960年代生まれの男性のそれぞれの生い立ちが交互に綴られている。そして、第二部ではふたりが出会う(といっても、ボランティアで知り合った他人同士なのだけど)。第一部ではおよそ10年近い時間のずれがあるが、第二部では同じ時間が流れていくのだ。
この主人公らの時代には、コックリさんや口裂け女、ノストラダムスの大予言(何も起きなかった)などが流行した。2000年問題(何も起きなかった)やバブル、関西や東北の大震災、そして、近年のコロナ禍。本当にいろいろなことがあった。そのたびに様々な情報が飛び交い、そのなかにはデマもあった。
記憶に新しいのは、コロナ禍で「トイレットペーパーがなくなる」というデマだ。最初はデマだったようだが、それを信じた人たち(あるいは、信じてはいないけど一応、といった人たち)が買いだめに走ったために、「本当に」お店やWEBストアからトイレットペーパーが消えた。
九州のネタだが、佐賀銀行でも2003年にデマによる騒ぎがあった。銀行が倒産する、というデマだ。これも同じように、信じた人や「一応」という人が銀行に殺到し、500億円もの現金が引き出された。→佐賀新聞
いま思い出したのだが、前に読んだ「二番目の悪者」という絵本では、金のライオンが銀のライオンを貶めるために故意にデマ(銀のライオンは危険だ!)を流す。温厚な銀のライオンを知る動物たちは最初は信じないけれど、「一応」「念のため」といって、善意で周囲に注意を促し広めてしまう。この行為が「二番目の悪い行い(一番目はもちろん嘘をつくこと)」なのだ、という「教え」になっている。この絵本の発売は2014年。iPhoneが日本で発売された2008年から6年が経過している。ちょうど情報が手元で簡単に、しかも素早く手に入るようになった時期と重なっている。
現実のデマは、悪意もあるかもしれないけど、軽い冗談を真に受けて・・・などという誤報が多く含まれているように思う。現代はいとも簡単に情報が拡散してしまう。本書では、ふたりの主人公の物語を通じて、何を(どんな情報を)信じたらいいのか、何が正しいのか、を問う。
私が思う正解は「自分を信じる」こと。情報をそのまま信じるのではなく、情報を得た上で自分がどう行動するか自分の頭で考えること。そして、仮に他人が自分とは異なる行動をしていたとしても、それにむやみに干渉しないことが肝要ではないだろうか。この本を読んでいて、繰り返しそう思った。
写真は、GRⅢのワイドコンバージョンレンズのテストで撮った、長崎港にある「ドラゴンプロムナード」。内部は、屋根付きのちょっとした広場になっている。このあたり一帯は再開発が予定されていて(時期はまだ未定のようだ)、いつの日か、このオレンジの球体とともに、ドラゴンプロムナードは解体される。記念撮影を兼ねて。
2024年4月某日撮影