道具は修理してはじめて自分のものとなる

 建築写真を撮るとき、現在はCanonのR5を使っている。このカメラの発売は2020年7月だが、1年くらい経ってから購入したので、使い始めていま2年くらいだ。これまで何の問題もなく使えていたのだが、このところ、電源を入れたときに「Err20」が表示されるようになった。ネットで調べてみたら、どうもシャッターに問題があるらしい。それでも電源を入れ直すことで改善していたので、そのまましばらく使っていたのだけど、いよいよ撮影中にも「Err20」の表示が出始めた。

 R5を使っているのは、建築写真には必須のTS-Eシリーズのレンズをキヤノン純正のマウントアダプターを介して使えるからだ。純正アダプターの何が良いかというと、ドロップインフィルター機能で円偏向フィルターが使えるところ。偏光フィルターは光の反射を抑えて、物や風景を鮮明に写すことができるレンズフィルターだ。普通はレンズごとにフィルターを付けるのだけれど、このアダプターならこれ一つで複数のレンズをフィルター付きで使える。操作性も気に入っていて、普通はレンズの先端についたフィルターを回して偏光効果を出していくのだけど、このマウントアダプターだと、レンズの根本でくるくるとフィルターを回せる。ほんの少しの違いだけれど、複数のレンズのフィルターワークが同じ動作で使えることの利点は大きい。

 それと、もう一つ。一眼レフ時代にもCanonの5Dシリーズを使っていたのだが、故障したことが一度もなかった。ハードな環境に持ち出して撮影する機会が少なかったのもあるだろうし、markⅡから使い始めて、機種がアップデートされるたびにmarkⅢ、markⅣへと変更していたので、1つのカメラをそれほど長く使っていたわけではないことも壊れなかった理由の一つかもしれない。そこへ、R5で初めての故障だ。レンズやストロボ、そのほかのアクセサリーの故障や破損はこれまでにもたくさんあった。だが、メインで使っているカメラボディの故障は本当にこれが初めての経験だ。メーカーに修理に出してみると、原因はやはりシャッターの不具合で、シャッターユニットの交換となった。費用は、送料を含めて4万円くらい。

 この出来事によって、Canonへの信頼が揺らいだり、R5を今後も使い続けることに不安を覚えたり、そんなふうに感じるのかなと最初は思っていた。けれど、修理から帰ってきたR5は、これまでに増してすこぶる順調で、それ以上に、なにかようやく自分のものになったような、そんな気さえしてきた。「雨降って地固まる」。修理して、使い込んで、はじめて自分の道具になる、ということを思った。

 さて、写真はR5によるデジタル写真ではなく、フィルムで撮った長崎県美術館だ。2005年、隈研吾氏がデザインした長崎を代表する建築物である。水の森公園に隣接しており、周囲には、あの出島(国指定史跡の出島和蘭商館跡)もある場所だ。

  正面入り口側には、こういうのを正式には何と呼べばいいのかわからないけれど、特徴的なサインが設置されている。横から見ると2枚構造になっているのがわかる。正面から見ると、2枚目に描かれた「長崎県美術館」という文字や、そのまた後ろの背景もうっすらと見えるようになっている。背景も含めて3枚のレイヤーが重なってとても美しい。

 美しくデザインされた建築物を撮っていてたまに残念に思うのは、三角コーンやトラロープの存在だ。ひどいときには、てかてかにラミネートされた注意事項があちらこちらに貼ってある建物を見ることもある。もちろん事情あってのことだから、それを批判するつもりはない。優れたデザインは、アフォーダンスやシグニファイアによって説明が不要なので、見た目を悪くする後付けの説明書きや注意書きが極めて少ない。けれど、環境や用途の変化、建物の老朽化などによって、だんだん最初の型から外れていくのだろう。長崎県美術館だって、完成からもうすぐ20年が経とうとしているのだ(と自分に言い聞かせながら三角コーンを受け入れて撮っている)。

 個人的にいちばん好きな場所がこの運河沿いのエリア。建物は運河を挟んで二棟に分かれていて、それをつなぐ通路にはガラス張りのカフェが設けられている。

 以前は、長崎県美術館でもピカソ展やシャガール展などのビッグネームのワンマン企画展(美術界でもワンマンライブみたいな言い方をするのだろうか)をやっていたけれど、コロナ禍以降はほとんど見られなくなってしまった。それは、福岡市美術館や九州国立博物館でも同じなのだけど。東日本大震災以降に全国で行われたアート展がすごすぎて、その反動もあるのかもしれない(当時は神戸まで「真珠の耳飾りの少女」を見に行ったりもした)。コロナ以前の2017年や2018年には、星野道夫さんや杉本博司さんの写真展もあった。またあのような写真展があるといいな。

 2023年9月某日撮影

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