2016年の芥川賞を受賞した「コンビニ人間」を読んだ

 私はいつも世間のブームよりだいぶ遅れて自分のブームがやってくる。たとえば音楽だと、2019年に大ヒットしたKing Gnuの「白日」がいいな、と思ったのは2022年だった。

 イノベーター理論でいえば、レイトマジョリティやラガードと呼ばれる層になるのだろうか。けれど、イノベーションの私の採用基準は、世間の普及率とは無関係だ。徹底して「後追い」が嫌い、というのも影響して遅れてしまうのかもしれない。そうといって、流行っているものを頑なに避けるつもりもない。良いものは良いのだから(鬼滅の刃も見るのが遅かったけど、たしかにおもしろいと思う)。

 2016年に芥川賞を受賞した「コンビニ人間」もだいぶ遅れて、最近読んだ。書店の文庫コーナーでおすすめされていた、とそれだけのきっかけだ。「コンビニ人間」が芥川賞を受賞した当時、書店で派手に平置きされていたので、作品そのものは記憶に残っていた。文庫版の表紙は単行本の表紙と同じデザインなので、すぐにそれだとわかったのだ。

 読むまでちょっと勘違いしていたのだけど、コンビニ人間とは、客としてコンビニを活用して生きている人のことだと勝手に思っていた。実際は働く側の人の物語だった。

 主人公の女性は、コンビニのバイト歴18年目。ちょっと変わった性格(感覚?)の持ち主ゆえに、一般の「常識」からすると少し外れている。だから、コンビニの店員でいるときのみが社会の歯車になれる、と思っている。そして、歯車になることが世間の常識としては良いことなのだろう、と思っているフシがある(そういうところがある人なのだ)。たしかに、相手の気持ちを汲み取る能力を必要とする職場や職業には向きそうにない(だいたいどこでもそういう能力が必要だから)。

 私は、どんな世界でも「それ」だけをずっとやってきた、という人を尊敬する。主人公は一般の人が思っている「常識」に馴染めないだけで、だからといって他人に迷惑をかけているわけでもなく、18年もの間コンビニ店員をずっとやってきたのだ。物語の最後のほうでは、「それ」だけをやってきた人間のプロフェッショナルを見ることができる。

 こうあるべき、と「常識」を押し付けられることがしんどい人におすすめの本だ。

 ところで、私は今まで、芥川賞よりどちらかといえば直木賞や本屋大賞を参考にして本を選んできた。芥川賞は新人賞なので、おもしろさにムラがある、と勝手に思っていたのだ。しかし、昨年読んだ2019年の芥川賞「むらさきのスカートの女」もとてもおもしろかった。思い込みはいけない。

 さて、写真は、大分県別府市の鉄輪温泉。坂の路地を散策すると、あちこちから湯煙が立ち上がり、硫黄の匂いがする。

 2023年10月某日撮影

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